労務勉強中

人事労務部門の若手社員による、給与、社会保険など労務関係について勉強したことのメモ

社会保険料や雇用保険料の一部を会社が肩代わりした場合

 社会保険料雇用保険料は、事業主(会社)と被保険者(従業員)の双方が、決められた料率によって負担することになっている。しかし本来、被保険者が負担すべき部分の保険料の一部を、事業主が肩代わりした場合、どうなるだろうか。

 ※今回は、年収の壁対策として設けられている「社会保険適用促進手当」については考えず、あくまでも一般の肩代わりに関する話として理解いただきたい。

割増賃金

 時間外労働、休日労働、深夜業に対して支払う割増賃金の算定基礎には、肩代わり部分も含まなければならない。

 労働基準法、同法施行規則で割増賃金の算定基礎に参入しない賃金は限定列挙されていて、この中に肩代わりが含まれていないためである。

労働基準法施行規則
第二十一条
 法第三十七条第五項の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第一項及び第四項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。
  別居手当
  子女教育手当
  住宅手当
  臨時に支払われた賃金
  一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

平均賃金

 休業手当や労災の休業補償、解雇予告手当などの計算に使われる平均賃金の算定基礎には、肩代わり分を含まなければならない。

 やはり労働基準法で、平均賃金の計算時に除外してよい賃金に含まれていないためである。

労働基準法

第十一条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

第十二条 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。〔略〕

 〔中略〕

 第一項の賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。

 〔中略〕

⑧ 第一項乃至第六項によつて算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる。

労働保険の賃金、社会保険の報酬

 労働保険における「賃金」、社会保険における「報酬」にも含めなければならない。

 「賃金」については下記のとおり、通達が出ている。

昭和63年3月14日付け基発第150号・婦発第47号「労働基準法関係解釈例規について」

所得税等の事業主負担〉

一、労働者が法令により負担すべき所得税等(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料等を含む。)を事業主が労働者に代って負担する場合は、これらの労働者が法律上当然生ずる義務を免れるのであるから、その事業主が労働者に代って負担する部分は賃金とみなされる。

ニ、これに対し、労働者が自己を被保険者として生命保険会社等と任意に保険契約を締結したときに企業が保険料の補助を行う場合、その保険料助成金は、労働者の福利厚生のために使用者が負担するものであるから、賃金とは認められない。〔昭和六三・三・一四基発第一五〇号〕

 「報酬」については明確に通達が出ているわけではないが、同様と考えるべきだろう。また現在の社会保険適用促進手当に関する特例で、同手当は「被用者保険の適用に係る労使双方の保険料負担を軽減する観点から」*1、時限的に標準報酬月額、標準賞与額の算定から外すことになっているため、逆算的には通常含めるべきものと解釈できる。

給与課税と社会保険料控除

 全員を対象に肩代わりし、かつその額が月300円以下である場合は、肩代わりする金額に対して給与課税する必要はない。ただこの場合、所得税、住民税の社会保険料控除の金額には、肩代わりした金額は含めないことになっている。

 一方、肩代わりした金額に対して給与課税する場合は、社会保険料控除の額にも含めることになっている。

所得税基本通達*2

36-32 使用者が役員又は使用人のために次に掲げる保険料又は掛金を負担することにより当該役員又は使用人が受ける経済的利益については、その者につきその月中に負担する金額の合計額が300円以下である場合に限り、課税しなくて差し支えない。ただし、使用者が役員又は特定の使用人(これらの者の親族を含む。)のみを対象として当該保険料又は掛金を負担することにより当該役員又は使用人が受ける経済的利益については、この限りでない。(昭46直審(所)19、昭63直法6-7、直所3-8改正)

 (1) 健康保険法、雇用保険法厚生年金保険法又は船員保険法の規定により役員又は使用人が被保険者として負担すべき保険料

 〔以下略〕

所得税基本通達*3

74・75-4 役員又は使用人が被保険者として負担すべき社会保険料を使用者が負担した場合には、その負担した金額は、役員又は使用人が支払った又は給与から控除される社会保険料の金額には含まれないものとする。ただし、その負担した金額でその役員又は使用人の給与等として課税されたものは、給与から控除される社会保険料の金額に含まれるものとする。(昭46直審(所)19、平23課個2-33、課法9-9、課審4-46改正)

ところで

 例えば賃金規程で「被保険者負担分の社会保険料の半額を会社が補助する」というルールがあるとする。

 社会保険料は標準報酬月額によって決まっており、毎月の給料がただちに社会保険料にも反映されるわけではないので、肩代わりはやりやすい。ただ社会保険料は休職中でも発生するため、その一部を補助した場合、補助額によっては補助額に対して所得税雇用保険料が発生してしまうのがネックである。

 では「従業員負担分の雇用保険料の半額を会社が補助する」というルールを設けた場合はどうなるか。

 例えば、ある月のある従業員の給与が基本給30万円、家族手当1万円だったとする。賃金総額は31万円になる。

 雇用保険料率が1.55%、うち従業員負担分が0.6%の会社の場合、まず普通に計算すると次のようになる。

  • 雇用保険料の総額は31万円×1.55%=4,805円
  • 従業員が本来負担すべき保険料は31万円×0.6%=1,860円
  • このうち半額を会社が負担するので、従業員の実際の負担は930円
  • 会社負担分は4,805円-(1,860円-930円)=3,875円

 ただし、従業員負担分の半額930円を会社が肩代わりすることになる。この部分にも雇用保険料はかかってくることになるが、どう計算するかは明確ではない。

 たとえばこの930円に別途、料率をかけて計算するやり方が考えられる。

  • 新たな賃金930円に対応する雇用保険料総額は930円×1.55%=14円
  • 従業員が本来負担すべき保険料は930円×0.6%=6円
  • このうち半額を会社が負担するので、従業員の実際の負担は3円
  • 会社負担分は14-(6-3)=11円

 この場合結局、従業員負担は930+3=933円、会社負担は3,875+11=3,886円となる。ただし、繰り返しになるがこの計算方法でいいのかどうかはよくわからない。